OWAScalc: Ovako式作業姿勢分析計算ソフト
【1】概要
本ソフトOWAScalcは、フィンランドで開発された筋骨格系障害の予防のための作業姿勢分析システムであるOvako式作業姿勢分析システム (OWAS: Ovako Working Posture Analyzing System [1],[2])のためのソフトである。旧バージョンのJOWAS(ver.0.9x, 2001-2002)から一部の機能を省いてWindows 10以降に対応させたバージョンである。
本ソフトには以下の機能が含まれる。
1)OWAS法に従って記録した姿勢や作業内容のデータを入力・編集して分析する。
2)OWASの姿勢コードは、各コードの姿勢の絵を同時に表示するので、コードをよく覚えていなくても使用できる。
3)OWASの評価表であるAC表から逆に姿勢コードを選択することができる。これにより、負担の低い姿勢を探すことができる(JOWASになかった機能)。
3)各時点でのACコード(OWASの評価コード)は、データが入力された時点で直ちに絵表示とともに算出されるので、入力時に同時に負担状況を観察できる。
5)OWASコードのほか、1つの作業分類コードを使用できます。作業コードは、最大5個の作業名を定義できる。解析時には、作業コード別の集計結果を出力できる。
【2】使用方法
1.データのファイルへの保存と読み出し
1)新規ファイルの作成
新たにファイルを作成する場合は、以下の手順で作成する。
(1)画面右端の[ファイル]の[新規]をクリックし、ファイル名を指定する。デフォルトでは記録開始時刻は00:00:00、記録間隔は30秒とされている。
・起動直後に新規ファイルを指定しないと、ドキュメントフォルダの\Ergo4MFG\OWAScalcフォルダ内のOWASdata.owsというファイルにデータを仮保存する。のちに「保存」から別ファイル名を入れて確定すると、そのフォルダの指定されたファイルにデータは保存される。
(2)ファイル情報の欄の「変更」を選択すると、開始時刻、記録間隔、作業コードが入力・編集できる。
・開始時刻はhh:mm:ssの形式で入力する。コロンが1つしかないとhh:mm:00と認識される。コロンがないと秒のみが指定されたと認識する。
・作業名は、最大5個まで指定できる。コードは1~5の数字に限定されていて、0は欠損とされる。作業コードの数は、作業コード名の欄が空欄でないところまでを有効数とみなしている。作業コード名が1つも指定されていない場合は、強制的に1番目のコートが「有効」を示す選択肢となる。作業コード名にはコンマやダブルクオーテーションは使わないこと。
・データが保存済みのファイルにおいて、開始時刻、記録間隔、作業コードを変更すると、変更確定時に時刻データがすべて書き替えられる。作業コードに変更後のコード数を超えるコードが指定されていると、そのコードはすべて1に変更される。
2)ファイル保存
画面右端の[ファイル]の[保存]をクリックし、現在と同じファイル名で保存すると上書きされ、別なファイル名を指定すると別名保存される。
3)既存ファイルのオープン
既存ファイルは、[ファイル]の[開く]で指定する。読み込んだデータは、左下のデータ表示欄に表示されるはず。
2.データの入力
・画面の上半分にある入力エリアの各姿勢をクリックして姿勢を入力する。各姿勢コードの選択法については、後述の補足2の説明を参照のこと。
・入力が終わったら画面右中段の[レコード]の「保存」で保存する。[保存]は追加保存、[上書]は既存レコードの修正上書き保存である。
・集計しないシーンは、作業コードを[0: 欠損]にすると集計から省かれる。
・入力できるレコード数は最大1000レコードである。
3.データ解析
データにミスがないことが確認できたら、[集計]を実行する。直ちに集計処理がなされて、画面右下の結果表示ウィンドウに表示される。
結果表示されるのは、(1)AC3またはAC4の改善が必要な時点のデータ一覧、(2)時点ごとのAC判定結果の集計結果、(3)時間割合からみたAC判定表の3種類である。(2)と(3)については、作業コードが定義されている場合は、作業コード別にクロス集計された結果も表示される。
4.評価方法
1)時点ごとのAC:OWASでは、AC3と判定された作業姿勢は要改善、AC4では至急要改善と判定する。従って、まず、AC3やAC4の時刻の作業を確認して、改善の可能性を検討すること。どのように変更するとAC1あるいはAC2の姿勢に変更できるかは、画面中央のAC表をみて探すとよい。
2)時点ごとのACの集計結果:集計結果のなかのAC3やAC4の割合を見ると、作業全体でのきつさが判定できる。作業コードが入力されている場合は、作業コード別の集計結果を比較することで、どの作業工程が負担かを判断することができる。AC3や4の割合が高いあるいは出現頻度が高い作業コードは負担が高いとみなされる。
3)部位別のACの判定:作業時間全体に対してある身体部位がとる姿勢の割合が高いと、その部位に負担がかかると判定される。これも、AC3または4と判定された部位が、時間累積的に負担が高くて改善が必要な部位である。
【3】使用上の注意
1.本ソフトはフリーソフトとして公開しているが、無断での複製や転載は不可である。
2.本ソフトは、使用者自身の責任において使用すること。作者は、本プログラムを使用したことによって生じたいかなる損害に対しても、それを補償する義務を負わない。
3.本ソフトはWindows 10/11上で作動する。
4.本ソフトは現在も改良を進めている。予告なく仕様を変える場合があることをご了承ください。
【4】作者および問い合わせ先
ものづくりのための人間工学, 人間工学評価ツール開発メンバー
URL https://ergo4mfg.com
上記URLの問い合わせページよりお願いします。
【5】文献
[1] Karhu O, et al., “Correcting working postures in industry: A practical method for analysis”, Applied Ergonomics, Vol.8, No.4, pp.199-201, 1977.
[2] Louhevaara V, et al.,“OWAS: a method for the evaluation of postural load during work”, Institute of occupational health. 1992, 23 pages, ISBN:951-801-960-6.
[3] Finnish Institute of Occupational Health, “OWAS manual”, 298 pages, 1994年頃に入手(現在入手不可? 片面印刷で、厚さ7cmのバインダに閉じられている)
<補足1> 旧バージョンJOWASとの相違
・ファイルの互換性はない。旧形式のデータをCSV形式で保存し、ファイルヘッダーを本バージョンに修正すると読込は可能である。本バージョンのデータはcsv形式で保存されているので、テキストエディタで開くと簡単に構造が読み取れる。ヘッダーには、ファイルタイプ識別文字列、記録開始時刻、記録間隔、作業コード数とコード名が記載されており、そのあとに変数名とデータが出力されている。この構造に合わせてcsvファイルを変更すればよい。
・旧形式データは、CSV形式に変換しても作業コード名はcsvファイルに出力されない。また、作業コード数は旧ソフトでは最大15個登録可能だったが、本ソフトでは最大5個に制限されている。
・動画との同期のための音声読み上げなどの支援機能はない。
・印刷機能はない。ただし、集計結果はテキスト形式で表示されているので、エクセル等にコピーして利用すること。
<補足2> OWASの適用範囲と姿勢コードのつけ方
以下の説明は、FIOH (Finnish Institute of Occupational Health, フィンランド国立労働衛生研究所) のOWAS manual [3]による。(補足)は本ソフト作者の補足説明。
1.OWASの長所と短所・限界
(長所)
・姿勢の分類がわかりやすく、実務経験者が利用しやすい。
(短所・限界)
・一定間隔で作業姿勢を観察して姿勢コードに記録するのが大変(時点ごとのACのみ使うのなら、特に面倒ではない)。
・姿勢コードの分類が大まかなので、作業負担の差や作業改善の効果を見るには使いにくい。
・30秒から1分間隔で観察するという原法に従う限り、保持姿勢の影響や反復動作の影響評価はできない。
2.姿勢コードのつけ方
1)体幹 Back
・「体幹」は、原文では「back」なので直訳は「背中」か「背部」であるが、他の姿勢評価法では同様な部位を「trunk」としているのでここは「体幹」とした。
・体幹を「曲げる」あるいは「ひねる」というのは、体幹部に20度以上の前傾、後傾、側屈、ひねりがあればそのように判断する。体幹の曲げやひねりがこれより小さいものは、すべて「まっすぐ」(直立)と判断する。ここでの傾斜角は、頭と骨盤を結ぶ線が鉛直方向となす角度である。
・ここはあくまで体幹部の評価である。首のみの前屈や後屈あるいは脚のみのひねりはこれに含まない。
(補足)OWASは目視での判定の一致性を高めるため、体幹の前傾の程度の細かい分類はなく、単に曲げやひねりの有無の判定のみになっている。目視だと10度の屈曲を記録するのが限界で、20度以上だとおおむね確実に屈曲と判定できる。
2)上肢 Arms
・腕が「肩の高さあるいはそれより上」とは、手・前腕・上腕のいずれかが肩と同じ高さあるいはそれより上にある場合である。
・体幹が前傾している場合(体幹コードが2や4)は、手・前腕・上腕のいずれかが肩より上にある場合に「上にある」と判断する。
(補足)肩関節は広い可動域を持つが、上腕を肩より上にあげると肩甲骨の挙上も必要になるので負担が高くなるので、そこを記録している。
3.下肢 Legs
・「足が曲がっている」というのは、膝の角度が150度以下(股関節-膝-足首のなす角度.膝がまっすぐな状態が180度で、膝が曲がるほど小さくなる)であることをいう。これより少ないわずかな曲げは「まっすぐ」で曲がっていないと判断する。
・「1.すわる」は、イス・机・バーなどに腰掛けた状態で、あくまで体重はお尻で受けている必要がある。壁に寄りかかる、手やおなかの部分でもたれかかる、寝る、床に座る(正座や胡座)、蹲踞の状態などはこれに含まれない。
・「2.両足をまっすぐにして立つ」は、両膝が曲がっていなくて両足で体重を支えている状態である。爪先立ちや長時間立位の際にみられる体重を足の間でかけかえる動作時はこれに含める。歩行時など体が移動している最中はこれに含めない。
・「3.体重をかけている片足をまっすぐにして立つ」は、曲がっていない片足で体重を支え、もう片方の足では体重をほぼ支えていない場合である。体重を支えていない足は、主にバランスを取ったり作業で使用されていたりする(足は床についていてもかまわないが、あくまで体重を支える役割は果たしていないことがポイント)。移動中の姿勢や長時間立位の際の体重のかけかえ、バーにお尻で腰掛けている状態はこれに含めない。
・「4.両膝を曲げて立つか中腰」は、いわゆる中腰の状態であるが、両足で体重が支えられていなければならない。膝やお尻が床につかない蹲踞の姿勢もこれに含める。
・「5.体重をかけている片足を曲げて立つか中腰」は、曲がっている片足で体重をささえた状態である。もう片方の足は体重を支えてない状態でなければならない。歩行中の姿勢は含めない。
・「6.片方または両方の膝を床につける」は、いわゆる膝立ちや片膝立ちの姿勢である。膝が床につかない蹲踞の姿勢はこれに含めない。 膝立ちが負荷が高いと判定するのは、床につく膝の痛みも考慮している。
・「7.歩くまたは移動する」は、あくまで移動がなければならない。前方だけでなく、後ろ歩きや横歩き、階段昇降も含まれる。台車等を押しながらの歩行も含まれる。
(補足)1~4は、下肢への負荷が高い順番になっている。
4.荷重または力 Load or force
・手で持ち運ぶ荷物の質量あるいは手で機器等を操作するときの発揮力である。
・本法では、荷重や力がかかるのが片手か両手かは区別しない。従って、左右の手にかかる荷重や力が違う場合、両手の合計で判定するのが妥当と思われる。
(補足)OWASが開発された1970年代は、20kg以上の荷物を扱う作業はまだ多かったので、このような分類になったようである。現在だと、多くの職場で20kg以上のものを手で扱う作業が減ったので、荷重コードは1か2がほとんどになった。