OWAS(Ovako式作業姿勢分析システム)の解説
【1】はじめに
OWAS(Ovako Working Posture Analysing System, Ovako式作業姿勢分析システム)は、1970年代に開発された全身の作業姿勢評価法である [1]-[4]。それ以前の時期に提案された姿勢評価法は、一般の人が利用できるのは姿勢の記録や分類までで、評価には専門家の関与が必要だった。それに対して、現場の作業者や作業設計者が記録・評価・改善まで一貫して利用できるシステムと登場したのがOWASである。その後開発された姿勢評価法の多くがこのOWASのスタイルの影響をうけた。OWAS自身、このスタイルを変えることなく現在でも世界中で広く利用されており[5]、実に寿命の長い評価法である。
OWASは、フィンランドの製鉄会社(Ovako Oy, 2018年に日本製鉄に買収されて2019年からは日本製鉄グループの山陽特殊製鋼傘下のOvako AB)に勤めていたKarhuやNasmanらやフィンランド労働衛生研究所 (Institute of Occupational Health) のKuorinkaらによって開発された。本法を初めて紹介したKarhuらの1977年の論文[1]では姿勢分類しか記載されていなかったが、Stoffertの1985年の論文[2]では評価法まで含めた完全な方法が報告されている。OWASには基本版と拡張版がある[4]が、広く利用されているのは基本版の範囲なので、その範囲に限定して紹介する。
【2】OWASによる作業姿勢の記録法
表2および図1の例に示すように、OWASではある時点の作業姿勢を背部・上肢・下肢・重さの4項目でとらえ、これをコード化した4桁の数字(姿勢コード)で記録する。この姿勢コードの分類は、不快感の主観的評価・姿勢による健康影響・実用可能性を考慮して決定されたものである。
表2.姿勢コード
1. 背部 (back) | 1) まっすぐ 2) 前または後ろに曲げる 3) ひねるまたは横に曲げる 4) ひねりかつ横に曲げる、または斜め前に曲げる |
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2. 上肢 (arms) | 1) 両腕とも肩より下 2) 片腕が肩の高さあるいはそれより上 3) 両腕が肩の高さあるいはそれより上 |
3. 下肢 (legs) | 1) すわる 2) 両脚をまっすぐにして立つ 3) 重心をかけている片脚をまっすぐにして立つ 4) 両膝を曲げて立つか中腰 5) 重心をかけている片脚を曲げて立つか中腰 6) 片方または両方の膝を床につける 7) 歩くまたは移動する |
4. 重さまたは力 (load/use of force) | 1) 10kg以下(w≦10kg) 2) 10~20kg(10<w≦20kg) 3) 20kgより大(w>20kg) |
図1.姿勢コードの記録例
姿勢の記録は、スナップリーディング法(観察間隔一定のワークサンプリング法)の要領で行う。すなわち、一定時間おきにその瞬間の姿勢を読み取り、姿勢コードで用紙に記録していく。文献では、測定間隔は30秒か60秒、一連続観察時間は20~40分にして10分以上の休憩を入れるという方法が紹介されている。こういった記録条件は、対象とする作業の内容に応じて決める必要がある。
複数の工程よりなる作業について工程別評価や工程間比較をしたい場合には、姿勢コードとともに工程名を示す作業コードを同時に記録する。
姿勢分類についての補足解説(文献[4]より)
- 背部
- 「曲がっている」というのは、体幹部に20度以上の前屈、後屈、側屈、ひねりがあればそのように判定する。これより少ないわずかな曲げは曲がっていないとする。この角度は頭と骨盤を結ぶ線が鉛直方向となす角度である。
- ここはあくまで体幹部の評価である。首のみの前屈や後屈あるいは脚のみのひねりはこれに含まない。
- 上肢
- 腕が肩より上とは、手・前腕・上腕のいずれかが肩と同じ高さあるいはそれより上にある場合が該当する。
- ただし体幹前傾がある場合(背部が2や4)は、手・前腕・上腕のいずれかが肩より上にある場合のみ「上にある」と判定する。
- 下肢
- 脚が曲がっているというのは、膝の角度が150度以下(股関節-膝-足首のなす角度.膝がまっすぐな状態が180度で、膝が曲がるほど小さくなる)であることを示す。これより少ないわずかな曲げは、曲がっていないと判定する。
- 「1.すわる」は、イス・机・バーなどに腰掛けた状態で、あくまで体重はお尻で受けている必要がある。壁に寄りかかる、手やおなかの部分で持たれかかる、寝る、床に座る(正座やあぐら)、蹲踞の状態などはこれに含まれない。
- 「2.両脚をまっすぐにして立つ」は、両脚が曲がっていなくて両足で体重を支えている状態である。爪先立ちや長時間立位の際にみられる体重を脚の間でかけかえる動作時もこれに含める。歩行時など体が移動している最中はこれに含めない。
- 「3.重心をかけている片脚をまっすぐにして立つ」は、曲がっていない片足で体重を支え、もう片方の足が床から浮いている状態である。体重を支えていない足は、主にバランスを取ったり仕事で使用されている(つま先が床についていてもかまわないが、あくまで体重を支える役割は果たしていないことが必要)。移動中の姿勢や長時間立位の際の体重のかけかえ、バーにお尻で腰掛けている状態はこれに含めない。
- 「4.両膝を曲げて立つか中腰」は、いわゆる中腰の状態であるが、両脚で体重が支えられていなければならない。膝やお尻が床につかない蹲踞の姿勢もこれに含まれる。
- 「5.重心をかけている片脚を曲げて立つか中腰」は、曲がっている片足で体重をささえた状態である。もう片方の足は体重を支えてない状態でなければならない。歩行中の姿勢は含めない。
- 「6.片方または両方の膝を床につける」は、いわゆる膝立ちや片膝立ちの姿勢である。膝が床につかない蹲踞の姿勢はこれに含まない。
- 「7.歩くまたは移動する」は、あくまで移動がなければならない。前方だけでなく、後ろ歩きや横歩き、階段昇降も含まれる。台車等を押しながらの歩行も含まれる。
- 重さまたは力
- 本法には、重さや力がかかるのが片手か両手かを区別して評価する手続きはない。左右の手にかかる重さや力が違う場合は、両手の合計の重さや力で評価する。
床に座る姿勢、胡座、寝ころぶ姿勢の分類についての補足説明
基本OWASには、床に座る姿勢やあぐら、寝ころぶ姿勢などの分類が含まれていない。これに対応するには、基本OWASで1~7までのコードが規定されている「3.下肢」について、以下の3つの新しいコード(追加コード)を追加して利用する。ただしこれら追加コードに対応したAC表は用意されておらず、分類はできても負担評価はできない。
- 8) 床に座った状態(正座やあぐらなど)
- 9) 寝ころぶなど足に負担がかからない状態
- 0) 梯子などを上る状態
【3】OWASによる作業姿勢の評価法
OWASでは、姿勢の負担度と改善要求度を以下の4段階のAC(Action Category)で判定する。そのために、表3と表4の2種類のAC判定表が用意されている。表3は時点ごとの姿勢コードでAC評価をするためのもので、表4は部位別に姿勢コードを全観察回数で集計した割合でAC評価するためのものである。前者は時点評価、後者は作業全体の評価に利用できる。
- AC1 : この姿勢による筋骨格系負担は問題ない。改善は不要である。
- AC2 : この姿勢は筋骨格系に有害である。近いうちに改善すべきである。
- AC3 : この姿勢は筋骨格系に有害である。できるだけ早期に改善すべきである。
- AC4 : この姿勢は筋骨格系に非常に有害である。ただちに改善すべきである。
表3.時点ごとの姿勢コードによるAC (Action Category)
表4.各部位の姿勢コードごとの集計割合によるAC (Action Category)
AC判定表を利用することで以下のような評価ができる。図2はその例である。
1.問題姿勢のリストアップ(細線):表3を用いて各時刻の姿勢コードのACを求める。ACが3や4のデータをリストアップすることで、どの時刻の作業姿勢に問題があったかを調べることができる。作業改善に利用する場合は、ACが3や4の時刻の作業を表3を参考にしてより低いACの作業姿勢になるように改善する。
2.作業の全体的評価や作業間の比較(破線):表3を用いて各時刻の姿勢コードのACを求め、単純集計して各ACの割合を求める。このうちAC4あるいはAC3+AC4の割合は作業の全体的負担度を示す指標として利用できる。作業間でAC4あるいはAC3+AC4の割合を比較すると、どちらの姿勢負担が高いかを比較できる。作業改善の効果も、AC4あるいはAC3+AC4の割合がどれだけ低下したかで評価することができる。
3.背部・上肢・下肢・重さのどこに問題があるかの指摘(太線):姿勢コードを桁(項目)ごとに単純集計して各項目の各コードごとにその全観察回数に対する割合を求める。それを表4と比較してコードごとにACを求める。もしAC3やAC4に属するコードがあれば、その項目には問題があると判定できる。作業別に集計すると、どの作業はどの項目のどのコードによる負担が強いかを比較できる。改善に利用する場合は、割合が高くてACが高いコードを、割合が高くてもACが低いコードの姿勢に変換するように試みる。
図2.OWASによる評価
【4】OWASの限界と他の手法との併用
1.細かい姿勢変化の記録:OWASは、他の方法に比べると姿勢分類がかなり大まかなため、同じ姿勢コードであっても様々な姿勢が含まれるうる。特に、上肢や下肢など体の一部を動きが少ないながらも繰り返し使う作業などでは、差が把握しにくい。各時点での姿勢評価に限定するなら、より細かい肢位の分類で記録されるREBA(迅速全身評価法)、上肢に限定するならRULA(迅速上肢評価法)が利用できるだろう。
2.保持姿勢の評価:OWASは非連続的観察法であるワークサンプリング法に基づいてデータを収集する。このため、原則的に持続時間の検討はできず、保持姿勢の評価は困難となっている。例えば姿勢変換のない座位や立位の作業は、その拘束性がどれほど高くてもACには影響しないし、AC自体もそれほど高くならない。OWASで観察の連続性を持たせようとすると測定間隔を十分短くするという方法がある。ただし目視での姿勢判定だと記録も分類も大変になるので、その部分だけ別な方法で調べたほうがよい。
3.より厳密な腰部負担評価:OWASよりも細かく腰部負担を評価したい場合や操作力の作用方向も含めて負担評価をしたい場合は、生体力学モデルによる腰部椎間板圧縮力推定を利用する。対象作業が荷物の持ち上げ作業でおおむね同じ作業の繰り返しとみなせるなら、NIOSH の荷物持ち上げ式 (NLE) やISO 11228-1の持ち上げを利用するとよい。
4.全体的評価:OWASでは、AC3やAC4の作業姿勢を減らすようにとあるだけで、ACやAC4をどの程度にすべきかという基準はない。これについては現場で利用しながらその現場に応じて目標を決めて利用することになろう。
参考文献
- Karhu O, et al. Correcting working postures in industry : A practical method for analysis. Applied Ergonomics 1977,8;199-201. (OWASの英語での初報告)
- Stoffert G. Analyse und Einstufung von Korperhaltungen bei der Arbeit nach der OWAS-Methode. Zeitschrift fur Arbeitwissenschaft 1985,1;31-38. (拡張版OWASを詳細に紹介)
- Louhevaara V, et al. OWAS: a method for the evaluation of postural load during work. Institute of occupational health. 1992,23p,ISBN:951-801-960-6. (基本版OWASをわかりやすく紹介した入門用冊子)
- Finnish Institute of Occupational Health, “OWAS manual”, 298 pages, 1994年頃に入手(現在入手不可? 片面印刷で、厚さ7cmのバインダに閉じられている)
- Marta Gómez-Galán, José Pérez-Alonso, Ángel-Jesús Callejón-Ferre, Javier López-Martínez. Musculoskeletal disorders: OWAS review. Ind Health, 2017, Aug 8;55(4):314-337. doi: 10.2486/indhealth.2016-0191.
(補足)本資料は、2000年前後に公表していた資料を一部改訂・復刻したものです。