ACGIH_HAL_doc

ACGIHのHand activity TLV (手の活動度の許容閾値)の概要

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【1】概要

 本法は、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists, 米国産業衛生専門家会議)が開発した上肢反復作業による上肢障害の予防のための許容閾値(TLV, Threshold Limit Value)の設定法である[1]-[3]。
 上肢反復作業の健康障害には、力の発揮と手の動きの程度が大きく関係する。また、手の動きが多いほど高い発揮力での作業はより負担になることが知られている。そこで本法では、手の活動度から求めた発揮力の許容閾値をTLVとして求め、実作業の発揮力が本法で求めたTLVを超えるかどうかでリスク判定を行う。
 本法では、手の活動度をHand activity level(以下, HAL)と呼ばれるスケールで記録する。HALは0~10の値をとり、手の活動がほぼない場合に0、手がほとんど動きっぱなしである場合に10の値とする。
 HALから求めるTLVは、発揮力を最大発揮力で正規化した値であるNPF (Normalized peak force、正規化最大発揮力) のTLVとして求められる。
 本法は、1日4~8時間行われる上肢の反復作業を評価するのに利用される。
 本法で対象とする部位は、手・手首・前腕のみである。手作業をする場合に筋骨格系障害が生じるのは必ずしも手や腕だけではないが、そこは考慮していない。また、手・手首・前腕などの保持が20分を越えない範囲の作業に適用すること。

(注)このTLVは、2018年以前は「Hand Activity Level」と表記されてHALと略記されていた。現在の名称は「Hand Activity」で「Level」は含まれていないが、現在もHALと呼ばれることが多いため、本サイトでもHALのまま利用しているところがある。

【2】使用法

1)手の活動レベルHAL
 HALの値は、作業シーンを観察してスコアリングする方法と、デューティ比DC [%]と反復頻度F [Hz]から計算式で求める方法とがある。

(1)作業シーンを観察してHALのスコアを直接決める方法
 作業を観察し、以下の区分で0~10のスコアに決める。

 0 手はほぼ遊んでいる.一定の動作はなし
 1
 2 一貫して目立つ長い停止.あるいは非常に遅い動き
 3
 4 遅い定常動作・労作.短い停止が頻回あり
 5
 6 定常動作・労作.停止は時々
 7
 8 速い定常動作・労作.定期的な停止なし
 9
 10 速い定常動作.追従困難な動作や連続労作

 HALは、力発揮の程度は考慮せず、手の動きの程度から判定する。
 手を休みなく動かしている場合はHALは6や7になり、さらに手の動きが速い場合は8や9になる。
 逆にそれなりの頻度の作業でも、手を動かさない時間が間に確実に入るとHALは2から4になる。手を動かさない間があまりない場合にはHALは5や6になる。

(2)デューティ比DC[%]と反復頻度F[Hz]からHALを決める方法
 HALは、2018年の改訂版よりデューティ比DC[%]と反復頻度F[Hz]から求める方法が追加された。デューティ比DC (Duty Cycle) とは、1周期の作業の所要時間であるサイクルタイムCTに対する労作時間(力発揮をした時間)ETの割合のことである。
 DC=ET/CT×100
DCとFからHALを求める式は、文献[3]によると以下のとおりである:
  HAL={6.56×ln(DC)}×{F1.31/(1+3.18×F1.31)}
ここで、ln()は自然対数である。上記の式のDCとFのレンジは文献[1][2]には明記されていないが、文献中に例示されたデータや表あるいは他の文献[3]などからみると、DCは0.1-100%、Fは0.001-2[Hz]となっている。ただし、計算したHALの値は0-10のレンジになるように調整する必要はある。

 上記のDCとFおよびHALの関係を、ソフトのAETのコンター図で示す。横軸のFは対数スケールとなっている。左下のDCもFも低い条件ではHALは小さく、右上のDCもFも高い条件ではHALも高くなる。この例では、DCが50%、Fが0.5 HzのときにHALは4.5になることを示している。
 なお文献[1][2]には、DCとFとの組み合わせで適応外となる領域があることが示されている。たとえば、Fが0.125 HzではDCが40%以上の条件や、Fが2.0 HzではDCが0-20%は適用外である。

(注)後述するようにHALは1未満ではTLVが求められないことになっているので、上図でHALが1未満となるDCとFの組み合わせは評価適応外になる。たとえば、Fが0.05 HzだとHALは1以下と低くてDCは100%まで可能なように見えるが、ここは評価の適用外である。この領域については、ACGIHの上肢局所疲労のDCと%MVCとの関係も踏まえるとよい。上肢局所疲労のTLVによると、DCが90%での%MVCのTLV(許容限界)はおよそ8%である。

2)正規化最大発揮力NPF
 作業時に手で発揮する力は、NPF (Normalized peak force、正規化最大発揮力) という値で取り扱う。NPFは、筋力の発揮がない状態が0、最大発揮の状態を10とする値である。筋力だと作業時の筋力のピーク値÷最大筋力発揮の筋力×10、筋電図だと作業時の筋電図のピーク値÷最大随意筋収縮時の筋電図×10(あるいは%MVC/10)に相当する。0~10の値を使うBorg CR10はそのまま使用される。
 NPFは、発揮力のピーク値をそのまま採用するのではなく、発揮力のデータ分布の90パーセンタイル値を採用する。また、作業中の力が実測できる場合では、最大発揮力の10%未満のノイズ成分を除いたデータの分布での90パーセンタイル値をNPFとする。
 本法では、手首の屈曲による影響や男女の差は、正規化で用いる最大発揮力を調整することで対応する。 

【3】ALとTLVの計算

 本法では、許容閾値として、NPFのAL(アクションリミット)とTLVを求める。それぞれをNPF_ALおよびNPF_TLVとする。これを求める式は、文献[1][2][3]によると以下のとおりである:
  NPF_AL=3.6-0.56×HAL
  NPF_TLV=5.6-0.56×HAL
 ただし、ALおよびTLVが利用できるのは、HALが1~9の範囲にある場合に限定されている。 

【4】評価

 本法では、NPFとALおよびTLVより、以下のように上肢障害のリスク判定を行う。判定例は上の図で示した通りである。
   NPF≦NPF_AL:低リスク・改善不要
   NPF_AL<NPF≦NPF_TLV:中リスク・要調査・改善
   NPF>NPF_TLV:高リスク・要改善

 下図にNPFとALおよびTLVの関係を、ソフトAETのグラフで示す。左下の緑の領域がAL以下の低リスクの領域、右上の赤の領域がTLVより上の高リスクの領域、その間の黄が中リスクの領域である。この例は、HALが5、NPFが2の場合の例で、黄色い領域で中リスクと判定されている。 

 リスクの程度を数値的に扱う場合は、最大力指数PFI (Peak force index)が利用できる [1][2][3]。PFIは、ALあるいはTLVに対する作業のNPFの比で、1以下であることが求められる。
  PFI_AL=NPF/NPF_AL (≦1ならOK)
  PFI_TLV=NPF/NPF_TLV (≦1ならOK)

【5】注意事項

1)ACGIHにおけるTLVとは、ほとんどすべての作業者が毎日繰り返し暴露しても、有害な健康影響が現れないと考えられる閾値である。他の人間工学評価ツールでも、同様な閾値を示すのに「限界値」や「許容値」など様々な用語が用いられているが、厳密には定義が同じではない点に注意すること。また、ACGIHのTLVは、それ相応のトレーニングを受けた人の利用を想定している。実際の利用に際しては、TLVと本法の元文献[1][2]の内容を理解のうえで利用すること。
2)アクションリミットAL (Action Limit)とは、文献[4]によると早めに改善活動を起こすべき閾値と定義されている。これは、TLVでは完全にすべての障害を防ぐことができず、少しでも障害が発生しうるレベルから教育や調査といった改善のための介入活動を起こす必要があるためである。そのレベルがALである。
3)上記で示したHALからNPF_ALおよびNPF_TLVを求める式は、2018年の改訂版による式である。それ以前の版では、以下の式が用いられていた[4]:
  NPF_AL=5.6-0.56×HAL
  NPF_TLV=7.8-0.78×HAL
 古いHALの資料を参照する場合は式の違いに注意すること。

【5】文献

[1] ACGIH. “Hand activity”. 2023 TLVs and BEIs. ACGIH, 2023, p.187-191.
[2] ACGIH. Hand Activity: TLV(R) Physical Agents 8th Edition Documentation. 8DOC-646-PA, 2018.
[3] Robert G. Radwin, David P. Azari, Mary J. Lindstrom, Sheryl S. Ulin, Thomas J. Armstrong, David Rempel. A frequency-duty cycle equation for the ACGIH hand activity level. Ergonomics, 2015, 58(2), p.173-183, doi: 10.1080/00140139.2014.966154
[4] Marcus Yung, Ann Marie Dale, Jay Kapellusch, Stephen Bao, Carisa Harris-Adamsond, Alysha R. Meyersf, Kurt T. Hegmann, David Rempele, Bradley A. Evanoff. Modeling the effect of the 2018 revised ACGIH(R) Hand Activity Threshold Limit Value (R) (TLV) at reducing risk for carpal tunnel syndrome. Journal of Occupational and Environmental Hygiene, 2019, 16(9), p. 628-633, doi: 10.1080/15459624.2019.1640366