RSIcalc: 改訂版ストレインインデックス (RSI)による上肢反復作業評価 【1】概要  改訂版ストレインインデックス(Revised Strain Index、以下、RSI)は、上肢の反復作業による筋骨格系障害のリスク評価のための手法である[1][2][3]。Moorらが作成したストレインインデックス(以下、SI)[4][5]を、Gargらが改訂したものである。本アプリRSIcalcは、その利用を支援するためのものである。  RSIでは、上肢作業を観察し、「労作強度」、「反復頻度」、「労作時間」、「手首肢位」、「作業時間」の5つの作業要因に着目する。各要因は連続量で扱い、それぞれ乗数(multiplier。それぞれIM, EM, DM, PM, HM)に変換する。この5つの乗数の積がRSIスコアである。RSIスコアは、作業に筋骨格系障害のリスクがない場合は小さい値、リスクが高いと大きな値になる。  RSI=IM×EM×DM×PM×HM  RSIが評価対象とする身体部位は、上肢のうちの手および手首を主とするいわゆる遠位上肢に限定されている。RSIは左右いずれかの上肢で計算する(左右合わせた総合評価は行えない)。  RSIは、1日当たり0.05時間(3分)から12時間の作業に適用される。  同質な作業タスク1つのみをRISで解析・評価するのが「単一タスク解析」である。  これに対し、同一時間帯に複数のタスクを行うものを総合的に解析・評価するには「複合タスク解析」、一日のうちに時間帯により異なる内容の複数のタスクを順次行うものを解析するのには「累積タスク解析」を行う。それぞれ「複合ストレインインデックス(Composite Strain Index, 以下、COSI)」および「累積ストレインインデックス(Cumulative Strain Index, 以下、CUCI)」を計算して評価する[2]。本アプリはいずれにも対応している。  RSIと旧バージョンのSIとの違いは以下のとおりである。 1)作業要因の変数をSIはカテゴリで選ぶ形から連続量を入力する方式に変更した。カテゴリで選択する方法は選ぶのが楽な反面、カテゴリの区分の付近で判定に迷い、不正確になることがある。それを解消した。 2)作業要因の変数として「作業速度」が除かれた。「作業速度」は主観的に決める変数であったので、判定者による差が出やすかったのと、作業の要因としては労作頻度と労作時間に含まれるものであったので省かれた。上記の1と2の改善により、エンジニアリングな改善に活用しやすくなった。 3)従来のSIは同一な単一タスクしか解析できなかったが、今回の改訂で複数のタスクでの複合解析や累積解析が可能になった。 (注)  本アプリRSIcalc for Web2は、従来のPC版(Windows版)のソフトRSIcalcをWeb上で作動するように移植したものである。両者は以下のような相違点がある。 1)PC版はWindowsでのみ作動していたが、Web版はブラウザを使えばWindows/Mac/Androidのいずれでも利用できる。対応しているブラウザはCrome/Microsoft Edgeで、FireFoxとSafariではレイアウトが多少崩れたりファイル操作で一部制限される部分はあるが、おおむね同じように動く。 2)PC版では、「複合計算」でCOCIの計算、「累積計算」でCUCIの計算をするように分けていたが、本アプリではタスクIDの数に応じて自動的に両者を計算するようにした。ただしCOCIやCUCIのグラフ表示は省略した。 3)PC版にあったACGIHのHALや上肢局所疲労と比較する機能は省いた。 4)PC版とのファイル互換性はない。Web版からPC版のデータファイルは読めない。ファイルの文字コードもPC版はShift-JIS、Web版はUTF-8で異なっている。 5)本アプリにはデータを自動保存する機能はない。そのため、データを「記録」しただけで「保存」せずに放置していると、Webの表示が自動更新されてデータが消える場合がある。注意すること。 6)PC版では、デフォルトでドキュメントフォルダに仮の保存ファイルが作られ、タスクを「保存」するたびに同じファイルに上書き保存されていた。しかしWeb版では上書き保存が制限されているため、仮保存ファイルは作られない。タスクを「記録」(従来のタスクの「保存」)しただけでは、データはメモリ内にあるだけでファイル保存はされない。ファイル保存をするには、メインメニューの「保存」を必ず行う必要がある。「保存」せずに終了すると、データは消える。詳しくは「【3】データの記録とファイル保存」を参照のこと。 【2】使用法 1.作業場面の決め方と各条件の入力  まず作業のうち、上肢を繰り返し使用するタスクを選択する。そのタスクについて、以下の5つの作業要因の値を決める。本アプリでは、各要因の値を決めると、自動的に乗数が計算されてRSIが求められる。RSIは5つの乗数の積なので、高い乗数の要因があるとRIは高くなって健康リスクが高くなることを示す。 (注意)RSIでは元文献に変数名や乗数名の明記があるので、本アプリはそれに従った。そのため、旧SIのソフトの変数名や乗数名が一部変更されている点に注意すること(例えば、旧SIソフトではD・DMは作業時間の変数・乗数としていたが、RSIではD・DMは労作時間、作業時間はH・HMが割り当てられている)。  本ソフトで登録できるタスクは最大10である。 1)労作強度(I, IM)  ある動作を繰り返す作業では、その動作の1サイクルの中に力を発揮して作業する労作(ろうさ, exertion)部分とそうでない部分がある。この労作部分の強さを示すのが、この「労作強度」である。本法では、力発揮の全くない状態から最大発揮する労作の範囲を0~100%の値で入力する。この値は、最大随意筋収縮(%MVC)あるいはボルグスケール(Borg CR10)の値を10倍した値に相当する。旧SIではボルグスケールに基づいて5段階で区分するようになっていたが、RSIでは0~100%の連続量での入力となっている。  日常の生活や繰り返しの多い作業の「作業強度」は、おおむね10~30%である。スポーツとしては50%以上の値になるのが普通であるが、仕事として毎日安全に繰り返し行えるのはおおむね50%以下である。  労作強度が0%の場合は、手で物を持ったり押し引きをしたりせず、単に手の動作だけが反復される場合のIMとみなせる。  なお、元文献[1]ではIは0~1の値で指定するようになっているが、ここでは入力のやりやすさから100倍した%値で入力するようにしている。また、労作時間Dが0秒の場合は、労作強度もI=0%としてIMを計算するようにしている(Iの表示値は変えず、IMの値のみ変わる)。 2)労作頻度(E, EM)  労作頻度は、労作を含む1サイクルのタスクを1分間あたり何回繰り返すかである。0~120回/分の範囲で指定する。  その実施可能性は、労作強度Iと労作時間Dに依存する。高い労作強度Iだったり長い労作時間Dだったりすると、高い労作頻度を出せない。ただし本アプリでは、労作強度Iや労作時間Dに応じた労作頻度Eの制限はかけていない。  労作頻度Eは小数値も指定可能であるが、0回/分だとEMは計算されず、RSIも計算されない。 3)労作時間(D, DM)  本法における「労作時間」は、1サイクルの作業のうちの労作発揮をする時間(単位:秒)である。0~100秒の範囲で指定する。旧SIやHALでは、サイクル時間に対する労作時間の割合である「労作率(%)」(あるいはデューティサイクル、デューティ比)が使用されている、RSIでは労作時間での指定となっている。作業観察に基づいて入力するには、労作率より労作時間のほうが指定しやすい。  なお、労作時間Dとして1サイクルの秒数(60[秒]÷労作頻度[回/分])を超える場合は、1サイクルの秒数までDを短縮してDMを計算するようにしている(Dの表示値は変えず、DMの計算値のみ変わる)。また、労作強度Iが0%の場合も、労作時間Dの値によらず、D=0秒としてDMを計算するようにしている。  一般に、労作強度Iが100%に近いと、数秒しか労作発揮は持続できない。労作強度が50%でも1分程度しか持続できない。ただし本アプリではその制限はかかっていない。 4)手首肢位(P, PM)  手首が曲がると、力発揮が難しくなる。同じ労作強度でも、手首が曲がらない状態に比べ、曲がった状態では労作強度も高くなる。その影響を考慮するための変数である。  手首が曲がっているかどうか(手関節の中間位からの掌屈又は背屈の角度)を、角度の単位でPとして指定する。掌屈をマイナス、背屈はプラスで入力する(±90度の範囲)。  手首肢位Pに対してPMは、背屈0~30度の範囲(0