MHL: Liberty Mutual の式による荷物取り扱い許容限界計算 【1】概要  本アプリMHLは、Liberty MutualのPotvinらの手作業による荷物取り扱い式(LM-MMH: liberty Mutual manual materials handling equation)[1]に基づいて、荷物持ち上げ・運搬・押し引きの各作業の設計や評価を支援するためのものである。LM-MMHは、従来、SnookとCirielloが作成して広く世界で利用されていたSnook & Ciriello Tables {2]{3]に新たな実験データを加えて回帰式の形で再整理されたものである。  本家のWebで利用できるLM-MMHは以下のリンクで公開されている。  https://libertymmhtables.libertymutual.com/ (注)本アプリMHL for Web/Web2は、従来のPC版(Windows版)のソフトMHLをWeb上で作動するように移植したものである。両者は以下のような相違点がある。 1)PC版はWindowsでのみ作動していたが、Web版はブラウザを使えばWindows/Mac/Androidのいずれでも利用できる。対応しているブラウザはCrome/Microsoft Edgeで、FireFoxとSafariではレイアウトが多少崩れたりファイル操作で一部制限される部分はあるが、おおむね同じように動く。 2)本アプリにはデータを自動保存する機能はない。そのため、データを「保存」せずに放置していると、Webの表示が自動更新されてデータが消える場合がある。注意すること。詳細は「【6】データの記録とファイル保存」を参照のこと。 【2】本法による評価の手続き ・本法では、荷物の持ち上げ・持ち下げ、荷物の運搬、台車等の押し・引きの3種類の作業について、それぞれの作業条件での最大許容荷重(MAL: Maximum Acceptable Load)が求められる。作業はいずれも両手での作業に限定されている。 ・事前に性別と受容率を指定する。受容率とは、指定された男性あるいは女性の作業集団の何パーセントの人がその作業を実施できるかという割合のことである。 ・各条件の値のスピンボタンを上下すると、直ちにその条件のMALが求められる。指定可能な条件の範囲も逐次更新される。なお、男女で作業条件の指定可能な範囲に差があるので、必ずしも同一条件での男女比較ができるわけではない。 ・各条件に対し、参照質量RLとスケールファクターSFが表示される。参照質量RLは、理想的な作業条件での最大取り扱い質量に相当する値である。SFはその補正項で、最良の条件で1となり、条件が悪くなると1より小さくなっていく。 ・MALの平均値であるMAL50は、参照質量RLに各SFを掛け合わせて求められる。MALの変動係数CVも作業の種類に応じて決まる。従って、MALが平均値MAL50、標準偏差CV×MAL50の正規分布に従うと仮定することで、受容率に応じたMALの値(MALの分布の上側累積確率が受容率になる値)が求められる。 ・計算されたMALの値に比べて実作業の荷物質量や押し引き力が高い場合は、リスクありと判定される。その場合、荷物質量や押し引き力自体、あるいは作業条件を改善してMALを満たすように改善する。作業条件の改善の際には、SFの小さい作業条件から改善することで効果的にMALを高くするように改善できる。 ・結果画面には、計算条件と計算結果が出力される。 【3】荷物の持ち上げ・下げ 1.始点の水平距離H[cm]:左右の足首の中点から両手の握りの中点までの水平距離を入力する。男性は25~73[cm]、女性は20~68[cm]の範囲で指定する。最小値は体との干渉、最大値は手の水平リーチによる範囲である。手の水平距離が左右で異なるときは、平均距離を使う。持ち上げの始点と終点で距離が異なるときは平均値か最大値を使う。 2.始点の高さV[cm]:持ち上げの時は、床面(0[cm])から手を上に伸ばした時の最大リーチ-25[cm]の範囲で指定する。25[cm]は持ち上げ高さDVの最小幅である。持ち下げ(降ろし)の時は、手を上に伸ばした時のリーチから床上25[cm]の範囲で指定する。LM-MMHでは、手を上に伸ばした最も高い位置は男性では214[cm]、女性では196[cm]とされている(いずれも男女の50パーセンタイル値による)。 3.上げ下げ高さDV[cm]:荷物を持ち上げるあるいは下す幅を指定する(いずれも正の値で指定)。持ち上げの場合、最小は0.25[m]、最大は手を上に伸ばした時の最大リーチである。持ち下げの場合は、最小値は25[m]、最大値は始点の高さVである。本手法では、持ち上げのない保持姿勢(つまりDV=0[cm])の評価はできない。 4.反復頻度F[回/分]:1分間あたりの持ち上げの繰り返し回数で指定する。最小値は1/480[回/分]、最大値は20[回/分]である。最小値は1日の8時間の労働時間内で1回(8時間×60分=480分)の意味である。最大値は20[回/分]であるが、平均移動速度(=DV×F)が11[m/分]を越えない範囲に限定される。 4.ハンドルC:荷物の持ちやすさのスケールファクター(Coupling scale factor, CSF)で、良好なハンドルなら1、不良なハンドルしかない場合や滑りやすいなら0.925、ハンドルがないなら0.84になる。 5.各変数のスケールファクターは、水平距離HがHSF、高さは始点と終点の平均高さに対するVRMSF、上げ下げ高さDVがDVSF、反復頻度FがFSF、ハンドルCがCSFである。 【4】荷物の運搬 1.手の高さV[cm]:運搬中の手の握りの床からの高さ(左右の中点)を指定する。値の範囲は、男性では78-110[cm]、女性では78-103[cm]に限定されている。 2.運搬距離DH[m]:運搬の始点から終点への手位置(左右の中点)の水平距離を指定する。距離は2.1-10[m]の範囲に制限されている。 3.反復頻度F[回/分]:1分間あたりの運搬の繰り返し回数で指定する。最小値は1/480[回/分]、最大値は10[回/分]である。最小値は1日の8時間の労働時間内で1回(8時間×60分=480分)の意味である。最大値は10[回/分]であるが、平均移動速度(=DH×F)が29[m/分]を越えない範囲に限定される。 4.各変数のスケールファクターは、手の高さVがVSF、移動距離DHがDHSF、反復頻度FがFSFである。 【5】台車等の押し引き 1.手の高さV[cm]:台車のハンドルの握りの床からの高さ(左右の中点)を指定する。値の範囲は、男性では63-144[cm]、女性では58-133[cm]に限定されている。 2.移動距離DH[m]:運搬の始点から終点への手位置(左右の中点)の水平距離を指定する。距離は2.1-61[m]の範囲に制限されている。 3.反復頻度F[回/分]:1分間あたりの運搬の繰り返し回数で指定する。最小値は1/480[回/分]、最大値は10[回/分]である。最小値は1日の8時間の労働時間内で1回(8時間×60分=480分)の意味である。最大値は10[回/分]であるが、平均移動速度(=DH×F)が37[m/分]を越えない範囲に限定される。 4.各変数のスケールファクターは、手の高さVがVSF、移動距離DHがDHSF、反復頻度FがFSFである。 5.本法では初期力の上限(IMAL)と維持力の上限(SMAL)という2つの上限値が計算される。初期力は、押し引きのはじめの加速時に発揮される高めの力である。維持力は、台車を一定の速度で押し続けるあるいは引き続けるときのやや低めの力である。 【6】データの記録とファイル保存 ・各タスクのデータの記録やファイルへの保存等は、画面上のメインメニューにあるボタンで行う。基本的な操作は、各タスクのデータを入力して「記録」し、あとでまとめてファイルに「保存」(ダウンロード保存)するという手順になる。 ・タスクの作業条件のデータを入力したら、メインメニューの「タスク」の[記録]でメモリ内に保存する。「記録」せずに別タスクに移動すると、警告なく表示していたデータは消えるので注意すること。「記録」したタスクのデータは、[削除]で削除できる。記録できるタスク数に制限はない。 ・「記録」されたタスクデータの一覧は、結果画面の下に「タスク一覧」として表示される。 ・「記録」したタスクデータは、メインメニューの「ファイル」の「保存」で1つのファイルにまとめてダウンロード保存される。「保存」を忘れてアプリを終了させたりリロードを行うと、記録したタスクデータは消えてしまうので注意すること。 ・保存されるファイルの名前は、先頭3文字が「MHL」、そのあとに年月日時分秒の文字列が続き、拡張子がtxtのファイルに固定されている。保存先は、使用しているブラウザで指定されたダウンロードフォルダに固定されている。  (注1)本アプリで保存したデータを扱う場合、ファイル名の先頭3文字は半角大文字のMHLから変更しないこと。拡張子もtxtから変更しないこと。タスクデータのファイルの年月日時分秒の部分は変更してもよい。  (注2)ブラウザは上書き保存ができない。そのため、同じデータで「保存」を繰り返すと、そのたびに年月日時分秒の部分が更新された別名のファイルがダウンロードされる。 ・ダウンロードフォルダに入ったファイルは、適宜、別フォルダに移動させて使用すること。 ・保存したファイルは、「開く」で呼び出せる。ここで複数のデータファイルを指定すると、、それぞれのファイルのタスクデータが結合されて読み込まれる。 ・「新規」にすると、現在PC内に保存されているデータを消して、新たなデータを入力できるようになる。  (注)表示等も含めて完全にクリアしたい場合は、ブラウザでリロードする。 ・保存データは、CSV形式(UTF-8)で保存されているテキストファイルなので、そのままエクセル等で利用することが可能である。ただしコードがUTF-8なので、漢字のあるファイルだと、直接csvファイルとして読むと文字化けするので注意すること(エディタ等を介してコード変換するか、読み込み時にUTF-8指定すること)。なお本アプリでは、1つのファイルに3種類の作業のデータが一緒に保存されているので、1タスクが変数名リスト1行とデータリスト1行の2行ずつ保存されている。 【7】注意 1.本アプリは、文献[1]の式をそのまま使用している。条件の範囲も文献[1]の値をそのまま利用している。日本人向けの値の補正は行っていない。 2.重量物の取り扱いに関しては、国内は「職場における腰痛予防対策指針」で男性の手作業での荷重は体重の40%まで(女性は男性の60%まで)、ISOでは11228-1などで25kg前後までとすることが示されている。本アプリで計算すると特に男性でそれをはるかに超える値が示される場合があるが、実務においては国内指針やISOの限界値を採用すべきである。 3.本アプリの利用は自由であるが、無断での複製・改変・転載は不可である。 4.本アプリは、使用者自身の責任において使用すること。作者は、本アプリを使用したことによって生じたいかなる損害に対しても、それを補償する義務を負わない。 5.本アプリは、現在も改良を進めている。予告なく仕様が変わる場合があることをご了承ください。 【8】作者  ものづくりのための人間工学, 人間工学評価ツール開発メンバー   URL https://ergo4mfg.com   上記URLの問い合わせページよりお願いします。 【9】文献 [1] Jim R. Potvin, Vincent M. Ciriello, Stover H. Snook, Wayne S. Maynard and George E. Brogmus, "The Liberty Mutual manual materials handling (LM-MMH) equations", Ergonomics, 64, 8, pp.955-970,2021, doi: 10.1080/00140139.2021.1891297 [2] Snook, S.H., “The design of manual handling tasks", Ergonomics, 21, 12, pp.963-985, 1978, doi: 10.1080/00140137808931804. [3] Snook, S.H. and V.M. Ciriello, “The design of manual handling tasks: revised tables of maximum acceptable weights and forces", Ergonomics, 34, 9, pp.1197-1213, 1991, doi: 10.1080/00140139108964855.