MHC: ISO 11228-1による荷物運搬の許容限界計算 【1】概要  本アプリMHLは、ISO 11228-1:2021 [1] (JIS Z8505-1:2025 [2])(以下、単にISO)に規定されていている手での荷物の運搬 (Carry)の作業限界を求めるためのものである。運搬の評価は、Liberty Mutualの式[2]によるMHLにも組み込まれているが、本アプリの運搬は、同じISOの持ち上げ・下げ (Lifting/Lowering) に基づいて構築されているため、一貫性をもって評価を行うことができる。  本アプリで可能なことは以下のとおりである。 1)質量3kg以上の荷物を1m以上の水平距離、手で持って繰り返し運ぶ作業において、作業条件に応じた荷物質量の上限値を求めることができる。 2)荷物質量と荷物総数を指定すると、指定した作業時間以内に所定の作業条件で作業を安全に完了できる作業者人数と運搬頻度を求めることができる。 (注1)  本アプリは、文献[1]および[2]などを基に作者が個人的に作成したものである。ISOあるいは日本規格協会から何らかの公式な評価や認定を受けたものではない。 (注2)  本アプリMHC for Web2は、従来のPC版(Windows版)のソフトMHCをWeb上で作動するように移植したものである。両者は以下のような相違点がある。 1)PC版はWindowsでのみ作動していたが、Web版はブラウザを使えばWindows/Mac/Androidのいずれでも利用できる。対応しているブラウザはCrome/Microsoft Edgeで、FireFoxとSafariではレイアウトが多少崩れたりファイル操作で一部制限される部分はあるが、おおむね同じように動く。 2)PC版にあった反復頻度と上限RMLとの関係グラフや複数人での荷物運搬の計算機能は省略した。 3)本アプリにはデータを自動保存する機能はない。そのため、データを「保存」せずに放置していると、Webの表示が自動更新されてデータが消える場合がある。注意すること。詳細は「【4】データの記録とファイル保存」を参照のこと。 4)PC版にあった英語版の機能は未対応である。 【2】ISO 11228-1:2021の運搬における推奨上限を求める手続き  このISOでは、運搬のリスクアセスメントの手続きを荷物持ち上げ・下げとともにステップ1~5の5段階で進めことが示されている。運搬に関しては、累積質量を作業条件の乗数で補正してアセスメントする手続きがステップ5に詳述されている。それが以下の1と2の手順である。ただし、ステップ5の前提としてステップ1~4の内容も満たす必要がある。そのため、3以降の手続きを合わせてアプリに組み込んでいる。 1)本ISOでは、運搬の作業限界は、所定の作業時間で運搬した荷物の総量である参照累積質量Mcumref(reference cumulative mass)[kg]で示されている。たとえば4時間作業だと4000[kg]、8時間作業だと6000[kg]がMcumrefの限界と定められている(ISO 11228:2021, p.10, Table 5)。 2)累積質量Mcumrefは、作業条件によって低下する。本ISOではその条件として、(1)両手/片手、(2)運搬時の手の垂直位置、(3)運搬距離、(4)タスクのリスク要因の4つを考慮するようになっており、それぞれ最良の条件が1、そうでない条件で1より小さい値になる乗数に変換し、それをMcumに乗じた値が作業条件による補正をした実際の累積質量RMcumになる(各条件の乗数への変換法は、ISO 11228:2021, Annex H, Table H.1~3を参照)。この累積質量Mcumrefの補正は次式の通りで、まずMcumに両手/片手の乗数OMをかけ、残りの3つの乗数(手位置乗数VM、距離乗数HM, タスクリスク乗数TRM)についてはそのなかで低い乗数2つのみをMcumrefにかける(ISO 11228:2021, p.52, Annex H, H.2): RMcum=Mcumref×OM×{VM, HM, TRMのうちの最小のもの}×{VM, HM, TRMのうちの2番目に最小のもの} 3)実累積質量RMcumを荷物総数で割ると、荷物1個あたりの推奨質量上限RML(Recommended Mass Limit)が求められる(ただし荷物総数は、作業時間中に中止することなく同じ頻度で運搬すると仮定して、反復頻度F[回/分]×作業時間LD[分]で求められるとする):   RML[kg]=RMcum/(F×LD)  ここで、求めたRMLが対象作業者の参照質量Mref[kg]を越える場合は、RML=Mrefとする(ISO 11228:2021, Annex H, H3の例題の説明およびAnnex AとB参照)。 4)本法が適用できる運搬速度は0.5~1.0[m/s]である(ISO 11228-1:2021, p.1, 1 Scope)。そのため、以下の手順で、運搬速度が1.0[m/s]=60[m/分]を越えないように反復頻度Fを制限する。なお、運搬距離H×2となっているのは、本ISOの運搬が、荷物を運搬したあとに続けて同じ距離を手ぶらで戻ることを前提にしているためである(ISO 11228-1:2021, p9, 4.2.3.2)。   運搬速度[m/分]=運搬距離H[m]×2×反復頻度F[回/分]<=60[m/分]  したがって、反復頻度Fは以下のように制限される。   反復頻度F[回/分]<=30/運搬距離H[m]  なお、アプリの表示では、平均移動速度[m/分]は運搬距離H[m]×反復頻度F[回/分]より求めている。そのため、表示上の最大速度は30[m/分]である。 (注)本ISOで推奨質量上限をRMLと表記するのは荷物持ち上げ・下げの場合のみで、運搬にはそのような記載はない。しかし、ISOのAnnex H, H3の運搬の例題には1個当たりの荷物の質量がMrefを満たす必要があるとの記載がある(ISO 11228-1:2021, p.54)。実作業の荷物質量と比較するのにも便利なため、本アプリではRMcum等から求めた荷物1個の質量を便宜上RMLと表記している。なお、Liberty-Mutualの式では、RMLではなくMAL (Maximum Acceptable Load)と称している。 【3】入力法  各条件を指定するとRMLが計算される。 ・各条件の値のスピンボタンを上下すると、直ちにその条件のRMLが求められる。指定可能な条件の範囲も逐次更新される。 ・画面下右のテキストボックスには、計算条件と計算結果が出力されている。  各条件の指定は以下のとおりである。 1)両手・片手O:運搬を両手で行うか、片手で行うか指定する。 2)手の高さV[cm]:運搬中の手の握りの床からの高さを指定する。 3)運搬距離H[m]:運搬の始点から終点への水平距離を指定する。範囲は1-20[m]に制限されている。 4)作業時間D:0.017~8時間の範囲で指定する。 5)反復頻度F[回/分]:1分間あたりの運搬の繰り返し回数で指定する。最小値は1/480[回/分]で、これは1日8時間の労働時間内で1回(8時間×60分=480分)の意味である。最大値は15[回/分]である。ただしいずれもRMLが3~Mrefの範囲で運搬速度が30[m/分}の範囲に入るようにより狭い範囲が指定されている。 6)タスクのリスク要因TR:6個あるタスクのリスク要因で該当するものにチェックを入れる。チェックした個数がリスク要因数TRに表示される。ただし乗数TRMには最大2個までが考慮される(2個以上チェックしても乗数TRMは変わらない)。 【4】データの記録とファイル保存 ・各タスクのデータの記録やファイルへの保存等は、画面上のメインメニューにあるボタンで行う。基本的な操作は、各タスクのデータを入力して「記録」し、あとでまとめてファイルに「保存」(ダウンロード保存)するという手順になる。 ・タスクの作業条件のデータを入力したら、メインメニューの「タスク」の[記録]でメモリ内に保存する。「記録」せずに別タスクに移動すると、警告なく表示していたデータは消えるので注意すること。「記録」したタスクのデータは、[削除]で削除できる。記録できるタスク数に制限はない。 ・「記録」されたタスクデータの一覧は、結果画面の下に「タスク一覧」として表示される。 ・「記録」したタスクデータは、メインメニューの「ファイル」の「保存」で1つのファイルにまとめてダウンロード保存される。「保存」を忘れてアプリを終了させたりリロードを行うと、記録したタスクデータは消えてしまうので注意すること。 ・保存されるファイルの名前は、先頭3文字が「MHC」、そのあとに年月日時分秒の文字列が続き、拡張子がtxtのファイルに固定されている。保存先は、使用しているブラウザで指定されたダウンロードフォルダに固定されている。  (注1)本アプリで保存したデータを扱う場合、ファイル名の先頭3文字は半角大文字のMHCから変更しないこと。拡張子もtxtから変更しないこと。タスクデータのファイルの年月日時分秒の部分は変更してもよい。  (注2)ブラウザは上書き保存ができない。そのため、同じデータで「保存」を繰り返すと、そのたびに年月日時分秒の部分が更新された別名のファイルがダウンロードされる。 ・ダウンロードフォルダに入ったファイルは、適宜、別フォルダに移動させて使用すること。 ・保存したファイルは、「開く」で呼び出せる。ここで複数のデータファイルを指定すると、、それぞれのファイルのタスクデータが結合されて読み込まれる。 ・「新規」にすると、現在PC内に保存されているデータを消して、新たなデータを入力できるようになる。  (注)表示等も含めて完全にクリアしたい場合は、ブラウザでリロードする。 ・保存データは、CSV形式(UTF-8)で保存されているテキストファイルなので、そのままエクセル等で利用することが可能である。ただしコードがUTF-8なので、漢字のあるファイルだと、直接csvファイルとして読むと文字化けするので注意すること(エディタ等を介してコード変換するか、読み込み時にUTF-8指定すること)。 【5】注意 1.本アプリが参照しているISOは制限事項がそれなりに多いので、使用時には文献[1][2]を必ず参照すること。 2.本アプリの質量上限や作業条件は、文献[1]のISOの値をそのまま参照している使用している。日本人向けの値の補正は行っていない。 3.重量物の取り扱いに関しては、国内は「職場における腰痛予防対策指針」で男性の手作業での荷重は体重の40%まで(女性は男性の60%まで)とすることが示されている。本アプリで適切に対象集団と年齢層を指定して適切な参照質量Mrefが選択されと、多くの場合は国内指針もクリアできるようである。ただし体格によっては当てはまらない場合もあり得るので、実務においては国内指針の限界値を優先して採用すること。 4.本ISOの運搬の累積質量Mcumでは、男女とも同じ値を使うようになっている。同様な運搬の式であるLiberty Mutualの式では、男女別の数値が用意されており、男性に比べて女性の許容限界はほぼ半分になっている。ISOの運搬の部分はフランス規格NF X35-109:2011にほぼ従っており、NF X35-109ではEU指令に従って男女あわせた集団だけを示している。そのため、ISO 11228-1同様、男女の集団への対応はそれに応じた参照質量を選ぶことで対応するようにしたと思われる。ちなみにNF X35-109:2011の例題では、同じ累積質量を用いて参照質量を15 kg(NF X35-109での許容限界質量)と25 kg(NF X35-109での条件により許容される限界質量)との両方で検討した例が記載されている。それを見る限り、参照質量に応じて累積質量を変えることはしないようである。 5.フランス規格NF X35-109:2011では、作業環境(温熱、照明、床条件、時間制約、空間制約)に応じた補正乗数も用意されている。 6.本アプリの利用は自由であるが、無断での複製・改変・転載は不可である。 7.本アプリは、使用者自身の責任において使用すること。作者は、本アプリを使用したことによって生じたいかなる損害に対しても、それを補償する義務を負わない。 8.本アプリは、現在も改良を進めている。予告なく仕様が変わる場合があることをご了承ください。 【6】作者  ものづくりのための人間工学, 人間工学評価ツール開発メンバー   URL https://ergo4mfg.com   上記URLの問い合わせページよりお願いします。 【7】文献 [1] ISO 2021, ISO 11228-1:2021 Ergonomics - Manual handling - Part 1: Lifting, lowering and carrying. [2] JIS Z8505-1, 人間工学-手作業による取扱い-第1部:持ち上げ,持ち下げ及び運搬, 2025, 日本規格協会, 2024:[3]のJIS版. [3] Jim R. Potvin, Vincent M. Ciriello, Stover H. Snook, Wayne S. Maynard and George E. Brogmus, "The Liberty Mutual manual materials handling (LM-MMH) equations", Ergonomics, 64, 8, pp.955-970,2021, DOI: 10.1080/00140139.2021.1891297 [4] AFNOR, NF X35-109, Ergonomie - Manutention manuelle de charges pour soulever, de’placer et pousser/tirer, AFNOR, Paris, 2011